エアログラファイト粒子の結晶性向上が力学特性に及ぼす影響

中空炭素ナノロッドが放射状に連結してできたシェル構造を有するエアログラファイト粒子は、70%以上圧縮しても元の形状に戻るという非常に柔軟な変形挙動を示すことが過去の研究で分かっていました。ただし、40%以上の圧縮ひずみにおいて大きなクラックが生じたり、繰り返し変形させると残留ひずみの蓄積により徐々に形が変わっていくことも見られました。また、これまでに合成したエアログラファイト粒子は、そのシェル構造をなす黒鉛層の結晶性が比較的悪く、欠陥が多く含まれています。黒鉛材料の結晶性は高温での加熱により向上することがよく知られていることから、エアログラファイト粒子を不活性ガス中で加熱処理を行ったとき、構造変化が粒子の力学特性におよぼす影響を調べました。

従来の黒鉛材料では結晶性を向上させるための処理温度を2000℃以上とすることが多くありますが、この粒子状のエアログラファイトでは、2000℃での加熱処理は結晶性を良くすると同時にシェル構造も変化させてしまうことが分かり、これによって、シェルの形態に由来する柔軟な性質が失われてしまうことが分かりました。これに対して、それよりも低い1600℃で加熱したとき、シェルの形態をそのまま保ちながら、炭素層中の欠陥が適度に修復された粒子を得ることができました。実際に、加熱処理を行った粒子を1個ずつ、走査電子顕微鏡内で圧縮したときの挙動を調べた結果、粒子の割れが顕著に抑制でき、かつ、30%のひずみを100回繰り返し負荷した後でも同様に優れた柔軟性を示しました。1600℃で加熱した粒子でも、変形中に層内に微小な欠陥が生じるなどしてひずみが蓄積されていくことには変わりなかったものの、それが粒子の割れに繋がるような亀裂発生源にはなりにくくなる、ということが示唆されました。

この研究成果は、Carbon誌に掲載されました。

Effect of annealing treatment on the mechanical properties of spiked-shell aerographite particles

Yuexuan Li, Hiromu Hamasaki, Kaori Hirahara,
Carbon vol. 203, 2023 523-533 (online published on Dec. 2022)

https://doi.org/10.1016/j.carbon.2022.11.079