ナノスケールの領域での熱伝達を可視化する試み

電子顕微鏡内で物質を加熱・冷却する実験は数多くなされていますが、微細な試料の、特にナノスケールの物質1個の上の狙った場所での温度を正しく測るのは難しい課題です。これまでの電子顕微鏡研究の歴史の中で、物質の相変態を捉えることは、温度の指標として最も信頼性が高い方法のひとつとされています。本研究室では、金ナノ粒子※の融解・蒸発を約1000℃の温度マーカーとして活用し、ナノスケールの物質での熱の伝わり方を可視化する実験を行ってきました。その成果として、濱﨑研究員らにより、カーボンナノチューブの熱伝達異方性を可視化した実験に関する論文が発表されました。

Visualization of thermal transport within and between carbon nanotubes
Hiromu Hamasaki, Seiiya Takimoto, Kaori Hirahara,
Nano Lett. (2021), published date: March 26, 2021.
doi: 10.1021/acs.nanolett.1c00336

カーボンナノチューブ(CNT)は、構造に由来して優れた熱伝導特性を有すると言われており、1本レベルの熱伝導率も調べられるようになっています。ただし、束になった構造(バンドル)や撚糸、配向膜など、凝集体としての応用では、隣り合うCNT間での電動特性も、特性を支配する主要因子になってきます。しかしながら、繁雑な凝集構造を用いる特性計測では、界面でどのように熱が伝わるか、本質的に理解するには限界があります。そこで、最もシンプルな凝集構造である、CNT同士が平行にくっつき合っているバンドル1本における熱伝達を電子顕微鏡観察によって可視化しました。粒子の融けていく過程を動的に捉えるというシンプルな手法ですが、CNTの一部を温めたときどのように高温域が広がっていくか、直感的に捉えることができています。この観察結果から、バンドルに沿った方向(1本1本のCNTが熱を伝えやすい方向)とバンドルを横切る方向(複数のCNT間の界面を介して熱が伝わる方向)での熱伝導率の比を明らかにすることができました。


※ナノ粒子は粒径が小さくなるにつれて融点がだんだん低くなることがよく知られていますが、本研究では比較的安定なサイズの粒子を観察しています。