通電加熱による、ナノチューブ1本レベルの加工

カーボンナノチューブ(CNT)を1本取り出して加工するには、それを加工するための”ツール”と、加工過程を観察する”目”の選択が重要です。これらも、CNT1本を扱うのに十分なレベルの精度でないといけません。

本研究室では、0.2nmの分解能を有する透過電子顕微鏡(TEM)にナノマニピュレータを組み込んで、ナノレベルの物質操作・加工をしながら観察できるシステムを構築しています。また、加工を原子レベルまで突き詰めると、物質を構成している原子間の結合を切ったり繋げたり、をいかに制御するか、ということになります。CNTを構成する炭素原子は、最も強固な共有結合によって各原子がネットワークを組んでいます。この結合を選択的箇所で切るためには、相応なエネルギーを与える必要があります。本研究室にて、CNTの加工メカニズムを研究する際には、ジュール加熱(抵抗加熱)によって、結合の切断・切り替えに必要なエネルギーを与えています。

五員環-七員環のペアからなるトポロジカル欠陥(5-7 defect) が、結合の切り替えによって1ペア伝播すると、CNTのらせん構造を表すカイラル指数が1ずつ変化する。本研究では欠陥が1個ずつ伝播する過程を実験により明らかにした。
五員環-七員環のペアからなるトポロジカル欠陥(5-7 defect) が、結合の切り替えによって1ペア伝播すると、CNTのらせん構造を表すカイラル指数が1ずつ変化する。本研究では欠陥が1個ずつ伝播する過程を実験により明らかにした。

TEM内でマニピュレータを用いて、狙った1本のCNTを電極間に架橋して、1µm程度の微小な電流を流しながらCNTを引っ張ると、切断されることなく徐々に引き延ばされる、超塑性(superplasticity)が観察されることが分かっています。その際、炭素原子が六角形(六員環)のネットワークを構成しているところの結合を切断・90°切り替え・再結合によって五角形-七角形のペア(5-7 defect)が形成され、それが結合の切り替えによって伝播していくモデルが理論的に提唱されていました。本研究室では、電子回折という結晶構造解析法によって実際に変形していく際の構造変化過程を観測することができました。その結果、従来の理論予測に加えて、CNTを構成するグラフェンシートがねじれることによって生じる面内応力を緩和する方向に欠陥が伝播するという、変形メカニズムに新たな要素が存在することを明らかにしました。