とげとげの球殻を持つaerographiteマイクロ粒子の力学特性

エアログラファイト(aerographite)は、厚さ数nm程度の薄い炭素層からなる多孔質炭素材料です。その密度は2~0.2mg/cm3程度と超軽量でありながら、最大95%まで圧縮した後でも損傷なく元の形状に戻るなど優れた力学的性質を有しています (Mecklenburgら, Adv. Mater. 24 (2012) 3486–3490)。このエアログラファイトは、テトラポッド状の酸化亜鉛結晶粒子の凝集体をテンプレートに用いて作られます。この製法なら、テンプレートの幾何形状を工夫することによってエアログラファイトの形状をデザインできることになります。本学基礎工の西山先生らのグループは、ZnO nanorod-microsphere (廣田ら, Chem. Lett. 43 (2014) pp. 360 – 362)という、酸化亜鉛のナノロッドが放射状に凝集してできた直径3~8µmのマイクロ粒子をテンプレートに用いると、その形態を反映して、中空ナノロッドが放射状に配列して球殻をなした、新しい形状のマイクロ粒子が作製できることを明らかにしました。この粒子は、約2000本の中空炭素ナノロッド(直径約100nm, 長さ約500nm)が根元で連結された球殻でできており、構造に由来した比表面積と広い中空内部空間から非常に大きな全細孔容積を有します。粒子1個の重さは約5pg(直径4µmの場合)と、ポリスチレンの1/10程度に相当し、既存のマイクロ粒子の中では最軽量クラスです。かさ密度は8mg/cm3と、従来のエアログラファイトに比較すると重いですが、それでも空気の密度(1.2mg/cm3)と同じオーダーです。

この、まだ製法が見いだされてから数年もたっていない新しい超軽量マイクロ粒子の有する特異な形状をどのように役立てていけるか、これから開拓していくにあたって、まずどのような性質を有するか明らかにすることが重要です。まずは、このマイクロ粒子をなす炭素層が5~15nmと非常に薄いにもかかわらず、そのとげとげの幾何形状のお陰で粒子が潰れずに安定に存在できていることに着目し、その力学的性質を調べることとしました。走査電子顕微鏡内でマニピュレータを用いてaerographite粒子1個レベルの圧縮試験を行いました。その結果、変形中には球殻をなす個々のナノロッドが折れたり変形することはなく、その代わりにナノロッド同士の連結部が板バネのように変形することによって、粒子全体が柔軟に変形でき、完全に潰した状態(最大73%のひずみ)からでも除荷後は元の形状に戻ることが分かりました。計測された弾性率は約26–50MPaと、シリコンゴムと同程度でした。この粒子の重量はシリコンゴムの約3%であることから、超軽量代替材料として機能する可能性があります。ただし、まだ炭素層の結晶性が完全ではないために、40%以上の変形ではクラックが入る確率が高いことも分かりました。圧縮時に1, 2個大きなクラックが入っても球殻全体の弾性によって除荷後はいったん元の形状に戻りますが、変形を繰り返すにつれて疲労が蓄積する要因となり、これを改善することが今後の課題といえます。

Ultra-flexible spiked-shell microparticles of aerographite
Kaori Hirahara, Koji Hiraishi, Konan Imadate, Zhenzi Xu, Yuichiro Hirota, Norikazu Nishiyama
Carbon vol. 118, pp. 607-614 (2017).
http://dx.doi.org/10.1016/j.carbon.2017.03.088