研究概要

  • 可視化を主としたナノスケール計測

  • ナノスケールの材料を測る・加工する・特性を制御する方法論開拓

  • ナノスケール構造特性を次世代新機能材料実現につなげる

 ナノメートルレベルの局所領域・ナノ構造物質1個に由来する特性・現象を可視化し、測り、制御する

本研究室の領域名は、「ナノ構造工学です。名前の通り、ナノメートルスケールでの物質の構造が深く関わる工学を追究します。ナノ構造・工学というよりは、ナノ・構造工学と捉えていただけるとありがたいです。一般的に構造工学というと、建築などの分野で物質がある構造を持ったときの剛性(力学)を考えるイメージですが、ナノの世界では多彩なことが起こります。物質固有の値と習うヤング率や、電気の流れ方、物質の融点もその物質のなす構造やサイズによって変わったりします。物質をナノメートルスケールでみると、原子や分子が並んで構造をなしています。結晶学的に理想的な物質の構造は単位胞(ユニットセル)が周期的に無限に並んでいる完全単結晶(一次構造)ですが、実際の物質の構造には欠陥などの構造異常が存在します。物質に必ず存在する表面(・界面)もそれに含まれます。さらに、カーボンナノチューブのような、結晶学的に記述できる単位構造を持つ個体が立体的な幾何構造をおりなす、すなわち二次構造を有するものもあります。
本研究室では、原子レベルの局所構造やナノメートルレベルの物質の有する特異な二次構造がつくりだす物理・物性を理解し、使いこなすことで機械工学分野での材料研究の発展を目指します。構造と特性の相関を紐解くにはいろいろなアプローチの仕方がありますが、本研究室では、まず直接見る」ことにこだわります。現象を観る、構造を見ながら測る、ということは、ある意味シンプルで直感的な選択ですが、見ることでなにを解き明かしたいのか、解き明かすために何を見るのか、突き詰めるところにメソドロジーという学問の深化が見えてきます。百聞は一見に如かずという言葉は全くその通りなのですが、単に顕微鏡を覗けば良いわけではありません。何のためにどんなことをどうやって見るのか、どうやったら本質を見ることができるのか、戦略を練り条件が整った時の「一見」はとても強く、真の価値を生じます。本研究室では、機械工学で扱うナノスケールの諸現象に対して「百聞は一見に如かず」を具現化することを目指し、日々探究を続けています。

 

研究室には、サブナノメートルレベルの物質の構造・形態を観察できる電子顕微鏡原子間力顕微鏡を有しています。それらの中でプローブマニピュレータによってナノスケールの構造体一個を自在に操作し、変形、加工、加熱、通電などが行えます。その過程での構造変化を可視化しつつ、力学・濡れ・電気伝導・熱伝導など諸特性の同時計測を行います。また、各種ナノカーボン材料を合成する独自の技術も持っています。これらを駆使し、

 
  • 可視化によりナノスケールの力学現象を解き明かす (基礎科学)
  • ナノスケールの材料を使いこなす・制御する・計る (方法論開拓)
  • ナノスケールの構造制御により新しい機能材料を開発する (応用展開)

といった研究に取り組んでいます。
次に、本研究室で取り組んでいる研究対象・手法論・テーマなどを紹介します。

 

研究対象: ナノカーボン材料

カーボンナノチューブ(CNT)はじめとするナノカーボン材料が原子レベルの独特な構造に由来した優れた性質を示すことは、これまでの基礎研究からよく知られています。特性を活かした高機能部材やデバイスなどの開発も多岐にわたり行われていますが、実用化レベルの応用に繋げるためには、ナノ構造物質の構造の多彩さや特性をよく理解した上で“きちんと”かつ“うまいこと”扱うための要素技術のさらなる開拓が必須です。また、それを支える基盤となる科学、すなわち基礎科学と応用を繋げるための科学の構築が必要とされています。本研究室では、機械工学の視点から、CNTをはじめとするナノカーボン材料物質について、1個レベルでの実験を元に、加工に関する基礎科学、力学的性質の解明、およびナノ構造物質特有の機械特性や形状特性をそのままマクロに活かせる機能材料開発などの応用展開に関する研究を進めています。
また、CNTのようなユニークな形態を有するナノ構造物質が配向して凝集体となったとき、CNT個々の性質に加えて、凝集構造により発現する性質を丁寧に解き明かし、制御することによって、現在「はやぶさ2」サンプルキュレーションでの実用化が期待されるCNTヤモリテープのような、新たな機能材料の開発へ繋げていきます。総じて、ナノカーボン材料の形状に由来するユニークな特性をどのように活かせるか、その可能性を発信できるような基礎研究をより発展させることを目指します。

 

 

ナノ物質を1個レベルで操作する

TEM・SEMに搭載したナノマニピュレーション装置。

カーボンナノチューブのようなナノ物質を1個レベルで精確に加工するには、 目的とする物質を1個だけ選んで自在に操る「手」や「加工ツール」とともに、その過程を観察するための「目」が重要な鍵を握ります。 本研究室では、サブナノメートルレベル(原子レベル)の物質や,物質の局所領域が観察できる「目」として透過電子顕微鏡(TEM)走査電子顕微鏡(SEM)といった顕微鏡を有しています。ナノカーボン材料は、1試料中でさえも多彩な構造を有しており、その凝集体を使ったマクロなスケールでの物性計測では、1個1個の構造や、構造体同士のなす界面、凝集構造が階層的におりなすなかでどのような構造がどのような性質の発現に寄与しているのか、解き明かすには限界があります。そのなかで、ナノスケールの物質1個体レベルでの、1界面レベルで構造をあらかじめ決定した上で、それを測ることは重要な意味を持ちます。それぞれの顕微鏡の内部でナノメートルレベルの物質を自在に操る「手」としてプローブマニピュレータを使いこなすことによって、ナノ構造材料1個体レベルの変形、加工、加熱などを行いつつ、それらに伴う構造変化をリアルタイムに追うことができます。これによって、加工に伴う原子レベルの構造変化と機械・電気特性変調の相関を、リアルタイム観察から明らかにし、ナノ物質構造独特のダイナミクスを解き明かしていくことを目指します。 さらに、ナノメートル領域で動作する新しい機械要素の創成や、ナノ物質特有の性質を活かした新しい機能材料の開拓も視野に入れつつ、「マニピュレーション技術を主体とした電子顕微鏡その場観察研究」が、ナノメートル領域での機械現象に関する知の深化にどこまでどのように踏み込めるか、観察技術・計測技術を育てながら模索しています。

最近では、ナノカーボン分野で培った技術を活かし、ナノメートルレベルの濡れ現象などについて、顕微鏡による直接観察や力計測によってなにがどこまで解明できるのか、“連続体近似に基づく諸法則と原子・分子レベルの現象の狭間”の世界にも挑戦しています。

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透過電子顕微鏡、TEM、ナノマニピュレーション、その場観察、その場計測、構造特性、機能材料、ナノカーボン材料、カーボンナノチューブ、ヤモリテープ、ナノスケールでの機械現象可視化

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共同研究

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他大学・研究機関の研究グループとだけでなく、企業とさまざまな共同研究を行ってきました。