ナノチューブは直径が10nm以下になると濡れ性が変わる

カーボンナノチューブ(CNT)は湾曲したグラフェンからなる円筒状物質です。このCNTが1本レベルでどのように濡れるか、を実験により調べました。

通常、固体表面の濡れ性は、その上に液滴を置いたときの液面と固体表面のなす角(接触角)によって記述されますが、これを直接可視化できない場合には、Wilhelmy法と呼ばれる力計測によって評価できます。直径dの円筒状の固体の端を液面に接触させたとき、円筒が液面に引き込まれて接触角θのメニスカスが形成されるとすると、円筒が液面に引き込まれる力Fは、θdおよび表面張力γを用いてFcosθで表されます。マクロの世界ではγは物質固有の値であるという前提から、円筒が引き込まれる力Fを計測すれば、接触角θが計測できることになります。また接触角θもヤングの式から固液、気液、固気の3つの界面張力のバランスにより導出される、物質固有の値と考えれば、この関係式では、力の値を円筒の円周長で規格化するとF/πd=γcosθ=定数ということになります。

本研究室では、このWilhelmy法にもとづき、CNT1本が濡れる瞬間に液面に引き込まれる力を原子間力顕微鏡を用いて計測しました。その結果、CNTの直径が10nm以上ではF/πdがほぼ一定の値を示しましたが、直径が10nmより小さくなるにつれて、だんだん小さくなることが分かりました。さらに、CNT直径が4.5nmより小さくなると、それとは逆に、急激に増大することが分かりました。これらの実験結果は、γもしくはθの値に変化が生じることを示唆しており、CNTが分子スケールの曲率を持つことが、マクロスケールでの考え方だけでは記述できない特異な濡れ現象を生じさせていると考えられます。